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“拡大するソーシャル系 深化するパーソナル化”
「マーケティング・ホライズン」 '08.1月号

Webの世界は、その動きに目が離せない。セカンドライフが話題になり、ヤフー、グーグル、アマゾンは益々進化し続けている。動画投稿サイトはもはや定着。SNS系はその勢いを増している。また、新しい動きとして"つながり"を求める米国発つぶやきブログ「トゥイッター」、"つっこみコメント"の動画投稿サイト「ニコニコ動画」、そして、ゲームから発展してヤング層に大人気の携帯サイト「モバゲータウン」も大ブーム。さらに、スカイプ創業者らが立ち上げP2P技術を利用した高画質動画配信サイト「ジュースト」、ウィキペディ開発者が始めた記事を編集する「ウィキア」など今後注目されるサービスも続々登場している。

セカンドライフは3Dソリューションの実験場

セカンドライフの狙いは面白い。利用者は世界で800万人。日本のトヨタやロイター、ノルウエー政府など先進企業や団体が参加している。ある意味では、話題先行型で実力以上に注目され、"ネットバブル"の状態である。しかし、セカンドライフの持つ意味合いは大きい。即ち、仮想現実を3D(3次元)で創り出しているからである。そこには、街があり、コミュニティがある。そして、不動産取引や商業施設、様々なサービスの"実"経済が動いている。また、経済活動を秩序化する法規制やサイト内通貨リンデンドルもある。セカンドライフ内仮想ビジネスでミリオネアーになる人物も登場したり、紛争が起きたりと"仮想現実化"の話題として事欠かない。 今後、インターネットが3Dになると、医療、遠隔教育、商品開発、製造管理、家族コミュニティ、ホスピタリティビジネスなどでよりリアルな仮想体験が可能になる。セカンドライフは新たな3Dソリューションの壮大な実験場の始まりである。また、進化した大画面高精細映像の世界では、偉大な宗教家達が掲示した「"あの世"と"この世"の生き方が楽しめる」事も見えてきた。

すべてのアクセスポイントを狙うグーグルの新戦略 

Web界の巨人「グーグル」の快進撃はとどまるところを知らない。株価も700ドルを突破。時価総額は2200億ドル('07.11)。M&Aのための余裕資金も潤沢にある。グーグルの目的は、「世界中の情報を整理して、世界中の人がアクセスできて、使えるようにすること」(村上社長談)。しかし、ネット上の情報量の内、検索が対象にできる割合は約5%程度と言われている。つまり、グーグルの"神の手"と言われる検索ソフト"クローラ"が届かないネット世界が拡大しているのである。そのため、グーグルは、検索だけでなくユーザーと接するすべてのアクセスポイントを開発し、そこに広告を配信する事を目指している。即ち、メール、ビジネス用ソフトなどSaaSへの取り組みや地図、書籍、ニュースなどのコンテンツ、そして無線LAN(携帯電話)などを無料化してユーザーを誘導し広告を配信するのである。 さらに、'07年末に携帯OS「アンドロイド」の無償提供を発表。世界のキャリアや端末メーカーに世界標準のOSをオープン化、無料化した。これは、携帯端末料金の低額化をめざしていると同時に、「グーグルフォン」としての広告モデルにより通信料の無料化を狙っている。これが成功すると、携帯キャリアのビジネスモデルを根幹から変えることにもなる。今後は、ネット端末として無線LAN機能を実装しているアップル社の「アイフォン」、そして、マイクロソフト携帯OSとの熾烈な戦いが繰り広げられる。

検索と広告のマッチングの次は行動ターゲティング広告

ヤフーの動きも面白い。会員数1300万人を超えるヤフーは、自社サイト内の百を超えるサービスで個人を特定せずに自社サイト内クッキーでユーザー行動を把握し、行動ターゲティング広告を始めた。結果として通常の約2倍強のクリック率を獲得。さらに行動ターゲティングに性別や年齢そしてエリア情報を掛け合わせた広告配信をしたところさらにその約2倍に達したという。また、NECビッグローブ、ニフティ、アットネットホームは、スケールメリットを狙い広告配信のヒット率向上のため共同で行動ターゲティング広告を展開し始めている。 一方、グーグルはこれまでは個々の検索ワードに対応した広告を配信していたが、"一連の検索行動だけを分析する手法"でターゲティングし、精度を上げている。同社は個人情報保護法の関係もあり、行動ターゲティングには慎重な姿勢で取り組んでいるが今後の動きは目が離せない。

映像メディア文化をさらに変える「You Tube」

グーグルが買収したと動画投稿サイト「You Tube」は、CGM動画コンテンツをグローバルで共有する「ネタ視聴」という新しいスタイルを提供する。著作権問題で敵対していたNBCやCBSなど米国大メディアもグローバル市場での告知力やDVDなどの販売貢献力が大きい事を認め、主力コンテンツを提供し始めている。また、ヒラリー・クリントンが大統領選出馬表明のメディアとして利用し、そのメディア力も実証された。 「Broadcast Yourself」を標榜する同社は世界規模で映像メディア革命を目指す。即ち、"映画やドラマを大画面テレビでじっくり見る"視聴スタイルではなく、面白いCGM動画ショートコンテンツをブログやSNSに貼付けたり、メールに添付したりなど"共有して楽しむ"という新しい視聴スタイルである。デバイスはPCや携帯へと広がる。つまり、"動画のSNS化とパーソナル化"のプラットフォームとして独自のサービスを確立しようとしているのである。

ネット上のソーシャライゼーションの動きが加速

情報化社会への流れとともに、個人と社会の中間集団に位置する企業と家庭のコミュニティとしての機能と役割が低下している。その分、自己の成長に寄与する、また人間的なつながりが共有できる共同体を求める。また、インターネットの世界はフリー、オープンが基本であるが、本音が話せるクローズなコミュニティを求める動きも大きくなっている。即ち、ブログやSNSなどソーシャライゼーションへ大きな流れである。米国ネット業界では、圧倒的な強さを持つグーグル、ヤフー、MSNのすぐ後ろにSNS系のマイスペース、フェイスブックなどが追い上げている。 そのマイスペースは会員数2億人を突破。広告だけでなく音楽などのプロモーションでは口コミを創り出しファン層を獲得するビジネスモデルを創り出した。一方、日本のSNSサイト「ミクシー」は20代を中心に会員数1000万人を突破。しかし、同社の収益モデルは、"場に掲出するバナー広告"が主であり、まだ弱く次の展開が望まれる。 一般的に、SNSは広告モデルだけで成り立つのは難しいとされるが、検索サイトと比べ滞在時間が長いという特徴がある。今後、行動ターゲット広告に加え、プレミアムサービスによる有料化、サイト内でのEC開発などによりSNSのさらなる成長が期待される。

いよいよ本格的なパーソナライゼーションが始まる

ネット上は膨大な情報が再生産され溢れかえっている。グーグルの検索エンジンは極めて優れたモデルであるが、必ずしもヒットしない。"集合知"は概ね正しいとの仮説であるが、対象情報が膨大になると"衆偶痴"を検索する場合もある。アマゾンの商品レビューや協調フィルタリング技術を利用した「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というリコメンデーションは便利である。しかし、人間の判断能力を超える情報量が押し寄せてきたらどうなるだろうか。恐らく情報洪水の中で正常な判断を誤るリスクが増大する。 この様な状況の中でこれから求められるのは、自分にあった有用な情報だけを収集するサービスである。即ち、個人の行動履歴や個人の趣味志向をベースにしたパーソナライゼーションである。さらに言えば、Web上の新しいエンジン"マイ・エージェント"により自分だけの必要な情報収集に加え、知や感性の連鎖をも可能にするパーソナル化である。もちろん、個人情報保護に係わるセキュリティ対策が必須なのは言うまでもない。

ネットの世界は、人類が未だ経験していない情報量とコミュニケーション領域に入ってきている。これからは、"人間脳とネット脳"との共進化による情報環境創りを考える必要がある。また、コミュニティ・ネットワークにはセレンディピティ(偶察力)を誘発する仕組みも内包している。新しい価値の創発に向けてWebの世界はどんどん面白くなる。

(2008.1 /縄文コミュニケーション 福田博)