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都心回帰と地方回帰の共存
「マーケティング・ホライズン」 '04.6月号

 バブル崩壊後の地価下落、規制緩和が拍車を翔け、六本木ヒルズ、汐留、品川、丸の内、日本橋と都市再生花盛りである。また、都心部マンションの再開発により居住環境が改善され都心回帰が進んでいる。一方、地方は、地場産業や農業の疲弊により人口の減少、高齢化は進行し、このまま地域間の市場原理が働けば、都市と地方との乖離は開くばかりである。特に山間僻地は、高齢者ばかりとなり、そのうち人も住まぬ地域になってしまう。しかし、果たしてそうなのであろうか。
 筆者の知人で、現在一部上場企業の役員が、退職後は、鹿児島に転居し、好きな釣りを中心に執筆活動と農業をエンジョイする計画を決めている方がいる。すでに土地も取得し、新居も建築中である。公的年金に企業年金を加えると約400万円を超えるという。持ち家で、隣近所の人たちと新鮮な野菜をお互いに融通し合えば、充分、豊かに生活できる。都市に比べ、地方は生活コストが安いのである。

 時代は工業社会から知識情報社会に移り始めている。知識情報社会では、都市の基盤が“工場”でなく、“人間”になる。そして、「知」が社会の資本となり、“人間力”と“創造力”が価値を持つ時代になる。最近の強力な情報テクノロジーの発達が、それを大きく促したのである。となると、“工業都市”に生活基盤を依存する必要はなくなったのであるから、人口集積のため工業団地を造ったりと、地方が都市のマネをする必要はない。地方は、本来、自然環境は豊かで、人間が居住するに適したポテンシャルの高い場である。むしろ、地方は、自然条件を生かし、教育環境、文化環境、コミュニティなどを整備し、思わず住みたくなる様な独自の生活環境を作り出すことが重要である。
 これからの時代は、企業誘致が先ではなく、“人”誘致が先なのであり、ソフト・サービス業などの企業は、良質な人を求めて集まってくるのである。
 人間は多様性の動物である。刺激的な都市生活が好きな人もいる。1日に、2?3時間もかけて通勤するより、職住接近で田園生活を望む人もいる。また、最近急速に増えている化学物質過敏症の方にとっては、生活環境どころではなく生存環境の問題である。あるいは、地方と都市を適宜住み分けする人種が出るかもしれない。
 また、これからは、人生80年時代、二毛作、三毛作は、当たり前の時代になる。一生同じ所に住むのも良いが、仕事やライフステージ毎に居住地を変えたりすることも普通になる。あるいは、3?6ヶ月程度の短期定住構想もあるかもしれない。グローバル化の時代、夏は、青森県の八甲田山、冬には、コスタデソル、春と秋は東京なんていうのも、オツナもんである。
 今後、毎年約250万人、4年間で約1000万人の団塊の世代が企業を離れて、第2の人生に突入する。地方で育っている人も多くいる。ビジネス経験も豊富である。しかも、消費者としてもプロである。彼らの何割かは出身地に戻るかも知れない。
 その地域の歴史と伝統、自然の恵みを利用し、また、情報インフラを使用し、新たな地場産業を起業するのも夢ではない。あるいは、今までの人脈と経験を生かし“都市に出稼ぎ”に行っても良いかも知れない。それが地方と都市との流動性を促すことになり、日本を活気づかせる誘因にもなる。もちろん若い世代も、負けてはいないだろう。
 今後は、都市も地方も“人間の心地よさ”を満足させる競争の時代に入る。となると未来に向けて早く発想の転換をし、豊かな生活環境を作り出した都市や地方が、人を集め発展する。
 さて、都市も地方も競って魅力的な時代になったら、あなたは、都市、あるいは地方、どちらを選びますか?

(2004.04.14/縄文コミュニケーション 福田博)