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この記事は日経ネットに転載されました。

NIKKEI NET BizPlus - 「どこまで伸びるかダイレクト保険」

ダイレクト保険はまだ伸びるか
「マーケティング・ホライズン」 '05.3月号/日経ネット転載

 ダイレクト保険が伸びている。自動車損害保険、第三分野といわれるがん保険、傷害保険である。

 とくに自動車保険は、97年より外資系保険会社が、リスク細分型保険として事故リスクの低い層をターゲットに、低価格を武器に顧客の支持を得る。そのビジネスモデルは、マス広告をチャネルとして、顧客をコールセンターやWebに誘導し、契約を引き受けるというものである。その後、国内系も参加し、年率2桁の成長で推移し、自動車損害保険市場全体の5〜6%のシェアを獲得するまでになった。しかし、順調に伸びてきたダイレクト保険のビジネスモデルが大きな転換期を迎えている。

 当初の顧客は、「補償内容が同じなら安いほうが良い」と合理的に考え、自ら情報を取りにいき、自らの判断で購買決定するという都市型のアクティブユーザー層であった。しかし、マス広告に反応する層が一巡した結果、次なるターゲットは、マス広告がリーチしにくい、広告では動きにくい層になっている。結果として、マス広告によるリーチ、そしてレスポンスが著しく低下している。さらに、今後のECの急速な拡大を予測した健康食品、化粧品、ファッションなどの通信販売企業の乱立も効率低下に拍車をかけている。

 ダイレクト保険は、確かに代理店という対面販売組織をカットした分だけ“安く補償内容も充実”しており、潜在的な成長力は高い。しかし、もう一段上の市場拡大を狙うならば、顧客と効率良くコミュニケーションできる次のモデルが必要になる。

 方策としてまず、広告に頼る“通信販売”から費用対効果が測定できる “ネット販売”への業態の転換が考えられる。ダイレクト損保という通信販売の広告費比率は2割近くにもなるが、広告は認知率でしか効果の把握ができない。この広告コストを投資対効果が把握可能なブログや経済的なインセンティブを伴うアフィリエートに転換したり、コスト効率の高い“PR投資”に移行すべきである。

 次に考えられるのが、コミュニティー内での顧客ロイヤルティーの向上による既存客からの紹介促進である。その企業や商品に対するロイヤルティーが高くなると、顧客は周囲の人にその商品を紹介し始めるが、企業側が意図的に仕組んだ関係性作りはコスト効率が悪い。むしろ、顧客が企業活動に参加を望む今日では、顧客の主体性を尊重し、顧客ベネフィットの高いコミュニティーを創ることである。これから注目されるのは、お互いのアイデンティティが確認できるミクシーなどのクローズド型のコミュニティーである。企業側の役割は、“顧客の囲い込み”ではなく、同じ価値観、ライフスタイルをもつ“場”の提供である。

 そして最後が、次世代ITを活用して“安心と信頼”という情緒的価値を伝え、顧客との絆を創ることである。現在のITレベルでは、人間のコミュニケーションの一部しかカバーできていない。より進化したBB化やユビキタス化は、メールによる“文字なじみ”、音声通話による“声なじみ”から、映像による “顔なじみ”と品質の高いコミュニケーション環境が可能となる。即ち、ネット及びリアルの世界での“個”客との対話力や接客力、そして企業社員・スタッフの人間力が顧客とのコミュニケーションを促進させるのである。

 ITの進化は破壊的イノベーションをもたらす。いままでのビジネスモデルにしがみついていると、ある日突然、非効率なモデルになる。そうならぬためにも、“個”客のコミュニケーション意向を把握(重要指標化)したり、今後予想されるブロードバンドなどのメディアの進化に対する迅速な活用力が重要となる。

(2005.02.21/縄文コミュニケーション 福田博)