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消費者金融に乗り出した銀行の顧客戦略課題

この記事は日経ネットに転載されました。

NIKKEI NET BizPlus - 「消費者金融に乗り出した銀行の顧客戦略課題」

「マーケティング・ホライズン」 '05.12月号

 
 最近、銀行に入ると、消費者金融業界の打出の小槌“無人契約機”があるのに驚かされる。さらに、良く見ると同一店舗でなんと金利の違う3タイプの消費者金融が提供されている。三井住友銀行の場合、無担保使途不特定で、銀行カードローンの金利が8〜12%、アットローンの金利が、15〜18%、プロミスの金利が、17.8〜25.55%という品揃えである。ご存知のように、上限金利には、2つの法律がある。出資法の上限金利29.2%、利息制限法の上限金利18%である。この二つの上限金利の間の金利が、いわゆるグレーゾーンで、顧客が「任意」に支払った金利は、有効であるとされている。このグレーゾーンに銀行が積極的に進出しようというのである。

企業融資が主力の時代、銀行は、個人ローンにあまり熱心ではなかったが、不良債権問題に目処がつき始めると、中小企業や個人向け貸し出しを狙ったリテール分野に重点を置き始めている。特に個人分野では、住宅ローンなどの目的別ローンを拡大したり、消費者金融事業を強化している。それもそのはず、消費者金融業界は、10年前の2.2倍の規模、約35兆円に達し、収益性も成長率も高く、銀行業界にとっては是が非でも参入したい魅力的な市場であった。当初、銀行が“サラ金業”を営むことには、イメージの問題もあり、また、消費者金融事業にとって必要な顧客の信用リスク管理力や営業力などのノウハウがないこともあり出資を通じて間接的に参入していた。しかし、いよいよ、低利で預金を集め、高利で貸すという銀行の機能を最大限利用し“消費者金融事業”を積極的に展開し始めたのである。

 “銀行のブランド”は強い。“銀行のブランド”を利用すれば“サラ金”に行くことをためらっていた新たな顧客層の開拓が可能になりローン残高の拡大は間違いがない。事実、今まで“サラ金”に抵抗感のあった30代、40代のファミリー層、年収500万円クラスの客が急増しているようである。さらに、国債や個人年金の窓販も実績を上げている。そして今後は、証券、保険の銀行窓販の解禁も予想される。これらの販売力は、長年に渡り培ってきた“安心と信頼”というブランド資産の賜物である。しかし、短期的な収益の拡大を目指さざるを得ないからといって、社会的にも問題が多い高金利消費者金融分野に“銀行ブランド”を使うことは、果たして、銀行のブランド戦略にとって良いことなのか。恐らくこれは、ブランド資産の“先食い消費”であり、長期的に見ると、銀行ブランドを毀損するように思われる。

 現在は、市場環境が大きく変わり、新しい顧客ニーズも見え始めている。このような時代、銀行は、顧客の利便性を第一に考え、新しいマーケットを育てるという心意気でブランド戦略、マーケティング戦略を考えてみてはどうだろうか。

例えば、リボルビング払いの家計ローン。家計のバランスを保つため資金が足りない月は、自動的にローン設定し、返済は、毎月一定額の支払いをするというもの。家計のメインバンク化は、銀行にとっても顧客生涯価値(LTV)の獲得にもつながり、何より生活者にとっても利便性が高い。あるいは、個人の能力向上やライフスタイルを豊かにする「自分投資ローン+アドバイス」。これからは、「自分磨き」や「自分の趣味を大切に」しながら人生を楽しむ時代になる。今まで、自分の趣味や教育のために“家計の先出し”、ということには抵抗感があったが、自分に対する投資は、将来の豊かな人生を獲得するための担保であるとも言える。 

銀行は、今後のリテール戦略として、ハイリスクハイリターンの高金利ローン市場を狙うべきではない。リスクの低い中間層に対し、生活やライフスタイルをサポートする新しいマーケットを創造し、育てることが望まれる。即ち、顧客ニーズを先取りし、利息制限法上限金利18%以下の“ミドルローン”マーケットの開発に力を入れるべきではないだろうか。

(2005.12 /縄文コミュニケーション 福田博)